2025/04/19
映画俳優ブルース・リーの名言に
「Don’t think. Feel!」
(考えるな。感じろ!)というのが
あります。
介護の現場でも
「Don’t think. Feel!」
って思う時があります。
認知症の方は一人ひとりの
性格も生き方も考え方も
違うので、これはこうすべきだ。
こうするのが正しいという
理論にがんじがらめになって
しまうと逆に介護の泥沼に
陥ってしまいます。
昨日、久しぶりの
快晴だったので
みんなでドライブに
出かけようとしましたが
1人だけ「私はここで
留守番してるから皆で
行ってきなさい」と拒否する
バーチャンがいました。
苫小牧フェリーターミナルに
行く予定でしたが、
私は「蘭越に行くから
みんなで行こう!」
とウソをつきました。
そのバーチャンの生まれが
蘭越町だったので
「蘭越に行く」と
言いました。
すると介護福祉士の
キャストが「ウソは良くないですよ」
と割り込んできました。
そうです。ウソは良くない。
しかし、キャストが4人
利用者が7人(車椅子の方が2名)
しかいません。
そのバーチャンが残ると
いうことはキャスト1名も
残らざるをえなくなると
したら、利用者6人を
3人のキャストで
見守らなければ
ならない。しかも車椅子の方が
2名なので、ドライブ先で
事故に遭うリスクも
大きくなると感じました。
なので、ウソついてでも
利用者とキャスト全員で
ドライブに出かけたかった
のです。
ドライブを拒否するバーチャンは
なんでも拒否から入ることが
多い方です。
しかしジョーダンを言うのも
好きな方なので、あえて
ウソをいっぱいつくことで
乗って来てくれて
「じゃあ、そこまで言うなら
行ってやるか」となることを
期待してのウソでした。
いい介護さんはいい役者でも
あるべきだと思います。
だから「Don’t think. Feel!」
なのです。
以前、
2年以上、入浴してない
バーチャンがいて、ケアマネから
「なんとかなりませんか?
デイなんか
行かないって頑固な方が
いるんです」
と泣きつかれたことが
あります。
そのバーチャンちに行くと
「デイサービスなんて死んでも
行かない!」と怒っていました。
しかし病院には行くという
情報があったので
昭ちゃん家を病院と
ウソついて来ていただく
ことにしました。
昭ちゃん家は普通の民家を
デイサービスにしただけ
なので、外観から見て
絶対に病院には見えない。
始めたばかりの時は
蕎麦屋と思って
入ってこようと
する人がいた建物ですが、
そこはバーチャン拒否もなく
入って頂きました。
そして
「ここは家族的な
アットホームを
目指した病院なんですよ~」
とかなんとか必死にウソついて
やり過ごしましたが、
いよいよ入浴の時、
「ニューヨークに行きたいか!」
「いいところへご案内!」
とか訳の分からない事を
言いながら脱衣所にいくと
「なにすんの!止めて!助けて!」
とバーチャンの阿鼻叫喚。
キャストたちは、つねられ
叩かれながらも
服を脱がせることに成功し
浴室に入るとバーチャンは
2年ぶりの入浴を体験するの
でした。
すると浴槽には自分で
またいで入り、
お湯につかり
「気持ちいいね~」と
言ったそうです。
あとでケアマネに
「入浴できました」と
報告すると
「えっ!?」と絶句して
いました。
これをある人は虐待と
いうのかもしれません。
農作業やスポーツが好きな方なら、
終わってからお風呂に
お誘いすれば、自然と
入浴できるかもできません。
「寒いから、風邪ひくから」
と入浴を拒否するジーチャン
もいましたが、そのジーチャンは
囲碁が好きなので囲碁が終わってから
「師匠、お背中を流させて
ください!」と言うと
ほとんど入ってくれました。
しかしそのバーチャンは
家でコーヒーを飲みながら
クラシック音楽を聴くのが
好きな方です。
農作業には誘えません。
一度、看護師が
「お風呂にいきましょ!」と
言ったとたん大騒ぎとなり
入浴できなかったことが
あります。
やっぱり風呂に行くとは
ぜったい言わずに脱衣所に行く
しかありません。
昔の人はうまいことを言いました。
「ウソも方便」です。
「大きな善行の前では偽りも
認められる」「物事を円滑に
進めるには多少のウソも
許される」と思うのです。
そうしてついたウソの
かいあって、留守番バーチャンを
車に乗せまして、
フェリーターミナルへ着くと
バーチャンは
「昔はここいらに住んでたんだ」
と饒舌になり、なんにもなかった
明野新町(昔は明野9という地名でした)
あたりを懐かしそうに眺めていました。
Don’t think. Feel!
やっぱりウソついて
良かったと心から思うのでした。